体罰防止に向けて
体罰防止に向けて
教職員向け指導資料(平成11年11月)
一 はじめに
本市の学校園においては、学校教育指針にある「学校教育は、個人の尊厳を重んじ真理と平和を希求するとともに、民主的で文化的な社会の創造に貢献する人間の育成を期して推進されなければならない」との趣旨に基づき、人間尊重を基盤にした教育活動を推進している。また、今日の社会においては、児童の権利に関する条約にある「子どもを一人の人間として、人権を享有する主体、そして権利を行使する主体として保障する」を踏まえた子どもの育成がなされている。
また、今日、子ども達を取り巻く社会状況や生活環境は、高度の情報化、少子化、核家族化、価値観の多様化等大きく変化し、同時に、家庭や地域の教育力の低下がいわれる中で、それに対応した学校教育の在り方が求められている。
教育は、子ども自身の人格の完成を目指し、よりよい社会の形成者として自立することへの支援である。その実現に向けた教育活動の根底には、子どもと教職員との心のふれあいを通して構築された信頼関係が必要であると考える。
現在の子どもの実態をみたときに、子どもを取り巻いている厳しい状況や環境が、子どもの成長過程に影響を及ぼし、子どもの行動を多様化させているものと考えられる。このような状況の下、子どもの指導においては、教職員の子どもの背景に対する認識や教職員自身の人権意識、さらに教育の原点に対する認識が重要であり、その認識等の不足が要因となり、体罰に至る状況がある。
体罰が起きる場面での子どもの姿には、「きまりを守らずわがままな行動で、集団の秩序を乱す。」等といった状況が見られる。教職員においては、「きまりを守らせるために強い指導が必要。話だけでは無理。」等の状況が見られる。また、保護者の一部には、「厳しく指導して欲しい。」等といった意向もあり、それが体罰を生み出す土壌につながっているとも考えられる。
体罰については、法律で禁止されているだけでなく、子どもの人権にかかわる問題として、あってはならない行為であり社会的にも批判が強まっている。体罰は、教職員の指導力の弱さの表れで、そこには教育そのもの(支援し育てる)が存在せず、学校教育に対する信頼を大きく崩すものである。
体罰を無くすために、先ず全教職員が体罰が起きた状況や背景を十分に分析・認識し、学校・保護者・地域の連携の下で、子ども一人一人の個性やよさを見抜き、子どもの可能性を伸ばす指導の方法や体制を確立していかなければならない。
教育委員会では、これまで生活指導の充実に向け、「生活指導充実のためのチェックポイント」や「こども理解を深めるために-カウンセリングマインドを活かして-」等の指導資料を各学校園及び全教職員に配布し、その活用をお願いしてきたところである。
各学校園においては、これまでの指導資料と合わせて、本リーフレットを校内研修会をはじめ生活指導に関する各種研修会の場で活用し、体罰を許さない、より積極的な生活指導の推進に努めていただきたい。
二 法令等における体罰の取り扱い
体罰は、法律で禁止されている。従って、体罰を行った教員は、行政上、刑事上、民事上の個人責任を負わなければならない。また、いかなる理由があろ うと公教育に携わる教員として体罰はあってはならない行為であり、教員(公務員)としての道義上の責任も生じてくる。- 体罰の禁止
学校における懲戒及び体罰禁止の根拠については、学校教育法第11条の規定による。 - 体罰を行った教員の責任
- 行政上の責任
職務義務違反(地方公務員法第29条)として、懲戒処分(免職、 停職、減給、戒告)がある。また、国家賠償法に基づく求償(国家賠償法第1条)があり、公務員として法令に反した場合に問われる公務員法上の責任が追及され、違反の程度により、一定の処分をうけることとなる。加害の教員はもとより、校長の監督責任を問われることもある。 - 刑事上の責任
傷害罪(刑法第204条)、暴行罪(同208条)、監禁罪(同220条)がある。 - 民事上の責任
不法行為による賠償責任(民法第709条)があり、傷害に対する治療費や慰謝料などの損害賠償が問題となる。
- 行政上の責任
三 体罰から生じる問題点
体罰が惹起する問題点は少なくなく、体罰を受けた子どもだけでなく、周りにいる子ども達をはじめ、保護者や地域にも大きな影響を与えるものであり、以下のことが考えられる。
- 子どもへの影響
- 「心」への影響
体罰は、子どもに肉体的、精神的な苦痛を与えるだけでなく、心の傷として長く残り、屈辱感・自虐感を持たせたり、自尊感情を減退させるなど心の成長を阻害する。 - 「学習面」への影響
体罰は、子どもの学校生活や家庭生活において、特に学習への意欲や集中力の低下を引き起こすなど、学習活動への大きな影響を及ぼす。 - 「子ども同士の人間関係」への影響
体罰を受けた子どもだけでなく、その周りにいる子どもの心にも影響を及ぼし、価値観に変化をきたしたり、力で解決する風潮を生じさせるなど子ども同士の人間関係に歪みを生じさせる。 - 「子どもと教師との人間関係」への影響
子どものもつ教師像に歪みを生じさせ、体罰を行った教師だけでなく教職員全体に対する見方や接し方に変化をもたらすなど、子どもと教師(教職員)の人間関係に影響を及ぼす。
- 「心」への影響
- 保護者・地域への影響 学校への信頼は、教職員の子どもへの積極的なかかわりや保護者・地域との密接な連携など、長期にわたる学校の地道な教育活動により築かれていくものである。しかし、一度の体罰により、当該教員が子どもや保護者から信頼を失うだけでなく、教職員全体に対する不信感を増幅させ、その結果、学校の様々な取り組みへの信頼が大きく崩れ、学校の教育活動に支障が出てくると考えられる。 また、地域社会で体罰についての風評が立ち、学校の教育方針や指導体制についての不満や不信感を生じさせ、学校のよさや今までの教育実践が理解されにくくなると考えられる。
四 体罰を防止するために
体罰や子どもの人権を侵害するような指導をしない、許さない指導の在り方については、全教職員が子どもを一人の人格をもった人間として尊重し、生活指導をはじめとするあらゆる指導の中においても子どもの人権を守りながら、子どもとの人間関係や信頼関係を構築し、教育活動を推進して行くことが重要である。そのために、全教職員が、教育の原点を再認識するとともに以下の事項について共通認識を深めて行くことが大切である。
- 教職員に必要な自覚と認識
- 体罰は、子どもの人権および人間としての尊厳を損なう行為であり、子どもと教職員との信頼関係を根底から崩すものである。
- 体罰を否定し、体罰を見逃さないことは教職員の責務である。「体罰は愛の鞭」や「問題が表面化しなければ多少の体罰も許されるのでは」という誤った考え方に対して、体罰否定を強く貫くことが大切である。
- 子どもは、体罰をする教員に対して不信感を抱くものである。また、体罰を制止する行動をとれない教員に対しても、体罰を容認する教員ととらえられ、学校全体に対する不信感につながるものである。
- 長期的な視野に立って、子どもの成長を願う心の余裕を持ち、子どもの話をじっくり聞き、時間をかけ根気よく指導し、自らカウンセリングマインドの育成に努める。
- 考え方が多様化している子どもに対して、旧態依然とした指導が通用するとは限らず、日常的に子どもの実態把握をするとともに、最近の子どもの心理・行動様式の変化を踏まえた対応について研究するよう努める。
- 生活指導の在り方
- 生活指導体制については、全教職員の共通理解の下で組織的に取り組み、子ども・保護者の心に迫る生活指導を目指した信頼関係の確立を図る。
- 子どもに対する指導については、子どもに話す機会を十分に与えたり、複数教員で指導にあたる等の配慮を必要とし、子どもを多面的な視点で理解するとともに発達・成長過程を考慮する。
- 問題行動に対する事例の研究や全国的な動向についての研究に努める。
- 対症療法としての生活指導だけではなく、長期的な視点に立ち、魅力ある学校づくりに努める。
- 学校体制の在り方
- 体罰の発生は学校体制および管理職の管理責任を問われる重大な問題であり、体罰を引き起こす土壌がないか、また「場合によっては、体罰も止むを得ない」という考え方を認める体質がないか点検する。
- 教育活動全体を通して、一部の教職員、生活指導部や学年の教職員だけで指導する等の抱え込み指導の防止に努めるとともに、学校全体の組織的な連携がとれていることが大切である。決して秘密主義や閉鎖性があってはならず、公明正大に指導を行うべきである。
- 子どもが何でも気軽に話せる環境づくりなど教育相談体制の充実に努め、悩みや不安が潜在化、深刻化しないように留意するとともに、子どもの人権・プライバシー保護について十分配慮する。
- 教職員研修等を通して、体罰によらない生活指導の在り方の研究に努めるとともに、不適切な指導や体罰の疑いがある指導に対して、教職員相互に点検できる環境づくりに努める。
- 全ての教職員の意見が反映できるように研修会や情報交換会等の内容や運営方法を工夫し、同時に日常的にも意見が反映できる職場の環境づくりが重要である。
- 子どもや地域の実態を踏まえ、学校・子ども・保護者・地域の連携のもとに学校のきまり・生徒心得等の見直しをする。
- 保護者・地域との連携
- 学校が中心となり、地域ぐるみの青少年健全育成の在り方等について研究し、保護者・関係諸機関・地域住民等との情報交換、意見交換のできる機会を増やす。同時に、そのような場で学校の教育方針や教育活動を明確にし、理解と協力を求める。
- 学校は地域の一員であるという認識に立ち、いつでも保護者や地域住民が学校を訪問できる環境整備に努め、開かれた学校づくりに努める。
- 保護者や地域住民の一部には、体罰を容認する考え方があるかもしれないが、学校として体罰否定の明確な指導方針を説明し、継続的に啓発する。
(参考) 体罰を起こしたときの対応
- 万一、体罰を起こした場合は、被害を受けた子どもの救済(ケガの治療、心のケア)を第一義に考える。
- 事実関係を正確に把握するとともに、報告体制の確立を図る。
- 管理職と加害教員が被害を受けた子どもや保護者に対して、誠意をもって対応にあたり、加害教員及び全校教職員に対する今後の指導の在り方を説明する。
- 保護者へは、体罰行為の非を認めると同時に子どもの問題行動について明確に区別して説明する。
- 体罰発生の原因の分析と再発防止策の研究に努める。




