大阪市教育改革の基本方向 (全文)
未来に向けてたくましく生きる
「なにわっ子」の育成をめざして
- 大阪市教育改革の基本方向 -
平成12年8月
大阪市教育委員会
◇はじめに 今、子どもたちを取り巻く社会環境がめまぐるしく変化している。中央教育審議 会をはじめとする国の審議会は、子どもたちにゆとりの中で「生きる力」(注)を育 むことが重要であるとして、豊かな人間性を育む心の教育の充実、一人一人の個性 や能力を尊重する教育の充実、生涯にわたって学び続ける力を養う教育の充実など の内容を盛り込んだ答申を出した。文部省はこれらをもとに「教育改革プログラム」 を示すとともに、平成14年度から実施される学校週5日制に向けた新しい学習指 導要領を告示した。 大阪市では、人間尊重の教育を基盤に、教育内容の充実に努めてきた。しかし今 日、社会が急激に変化する中、あらためてこれまでの教育の成果と課題を整理し、 中・長期的な展望に立って、これからの教育の方向性を示す必要がある。 平成11年4月には「大阪市教育改革懇話会」を設置し、今後の教育の在り方に ついて諮問し、平成12年2月に「21世紀にはばたく『なにわっ子』の育成」と 題する提言を受けた。教育委員会では、この度、この提言や本市の各審議会の答申 や計画等を踏まえ、学校教育をはじめとする教育改革のビジョンを「大阪市教育改 革の基本方向」としてまとめた。今後は、これに基づき、これまでの教育施策を総 合的に検討しつつ、具体的プランを「大阪市教育改革プログラム(仮称)」として まとめ、教育改革を推進していく。
目 次 ◇はじめに ◇教育改革の目標 1.「生きる力」を育む学校・家庭・地域における教育の充実 (1)学校教育の充実 ①豊かな人間性を育む教育の推進 ②人権を尊重する教育の推進 ③個性が輝く教育の推進 ④特色ある学校づくりの推進 ⑤「大阪らしさ」を生かした教育の推進 (2)家庭・地域の教育の充実 ①家庭の教育機能の充実 ②地域の教育機能の充実 2.「生きる力」を育む教育を支える体制づくり (1)学校支援体制の充実 ①活力ある学校づくりへの支援 ②教職員の資質の向上 ③学校施設・設備の充実 (2)学校間の連携と交流の充実 ①学校間連携の推進 ②中学校と高等学校の連携 (3)学校教育と社会教育の連携 ①子どもを守り育てるネットワークづくり ②地域の人材等の学校教育への活用 ③社会教育施設等との連携と活用 ④子どもの体験活動に関する情報の収集と提供 ◇教育改革の目標 戦後、新しい教育制度がスタートして半世紀以上が経過した。この間の我が国の 経済の発展や科学技術の進歩は、人々に豊かで便利な生活をもたらしたが、その反 面、精神的なゆとりがなくなり、心に充足感が得られにくい状況も生じてきている。 また、近年の国際化、情報化、都市化、核家族化、少子高齢化等の進行にともな い、価値観が多様化し、人々のライフスタイルが変わり、子どもたちを取り巻く環 境も大きく変化してきている。 その結果、自然体験や生活体験、社会体験を通して、豊かな感性を育んだり、規 範意識を養ったりする機会が少なくなってきている。また、年齢や世代の異なる人 々とふれあう機会が乏しくなっており、社会性を身につけるきっかけとなる友情、 葛藤、忍耐等を経験する機会も減少しつつある。 このような状況の中、あらためて今、子どもに基本的生活習慣や社会性などの資 質を培う家庭の役割を見直すとともに、地域社会の力を生かし、子どもを社会の宝 として地域社会全体で温かく守り育てていくことが求められている。また、学校( 幼稚園を含む。以下同じ)でも、生涯学習社会のもと、社会の変化に対応し、多様 化するニーズに応える教育を充実するとともに、家庭・地域との一層の連携、さら にはいじめや不登校、問題行動などさまざまな課題への適切な対応が求められてい る。 本市教育委員会は、これまで人間尊重の教育を柱に積極的な教育行政を推進し、 人・自然・文化とのふれあい教育、高等学校の特色化、児童いきいき放課後事業、 こころひらく教育相談事業など、先進的な取り組みを展開し成果をあげてきた。 しかし、本市においても少子化をはじめ社会の急激な変化に伴い、子どもたちの 生活の在り方が大きく変わり、心の成長にさまざまな影響が現れてきている。 21世紀を目前に控えた今、これまでの教育の成果を踏まえ、新たな課題を克服 すべく、中・長期的な展望に立って、教育改革を進める必要がある。未来に向けて たくましく生きる「なにわっ子」の育成をめざし、 〇豊かな人間性を育む心の教育の充実 〇社会の変化に対応する教育の充実 〇「大阪らしさ」を生かした教育の推進 を重点として、以下に示す基本方向の項目に沿って、本市の教育改革を推進する。 1.「生きる力」を育む学校・家庭・地域における教育の充実 平成14年度からの学校週5日制の実施を踏まえ、子どもたち一人一人に、ゆと りの中で「生きる力」を育むことができるよう、学校・家庭・地域が連携を一層深 めるとともに、それぞれの教育力の充実を図る。 (1)学校教育の充実子どもたちに、社会の変化に対応して自ら学び自ら考える力、生命を大切にし人権を尊重する豊かな人間性を育み、生涯にわたって学んでいくことのできる基礎的 な資質を育成することが大切である。そのために、教育内容を厳選し、基礎・基本 を身につけさせるとともに、個性や能力を伸ばし、さまざまな出会いや体験を通じ て、幼児期よりの発達段階に応じた心の教育を充実する。また、「大阪らしさ」を 生かした特色ある教育を推進する。 ①豊かな人間性を育む教育の推進 生命を大切にし、他人を思いやる心や人権を尊重する心、自然や美しいものに感 動する心、正義感や倫理観など、豊かな人間性を育む教育を推進する。 〇お互いの個性を認め合い、集団の一員としての自覚を深められるよう、学級づ くりを充実し、魅力ある学校生活の実現を図る。 ○自然とのふれあいや体験的な学習、ボランティア活動などを通して、豊かな感 性を育てる。 ○自立心・自制心や責任感、社会貢献の心を養うなど、学校の創意工夫と特色を 生かした道徳教育を充実する。 ②人権を尊重する教育の推進 本市では、これまで人間尊重の教育を各校に徹底するとともに、同和問題の解決 に向けて同和教育の推進を図ってきた結果、さまざまな人権にかかわる教育へと広 がりをみている。今後も「人権教育基本方針」「大阪市人権行政基本方針」を踏ま え、「大阪市人権教育のための国連10年行動計画」に基づき、すべての人の基本 的人権を尊重する社会の確立をめざし、人権教育を一層充実する。 ○人権問題が複雑・多様化する中、同和問題、外国籍住民、障害者、高齢者、子 ども、女性の人権にかかわる問題など、さまざまな課題の解決に向けた教育の 充実を図る。 ○違いを認め合う態度の育成を重視するとともに、人権尊重の雰囲気にあふれた 学校づくりを進める。 ○各研究団体の充実を図るとともに連携を深め、人権教育のカリキュラム・教材 等の開発・活用を図る。 ○教職員や社会教育関係職員の人権意識と実践的指導力の向上に努める。 ③個性が輝く教育の推進 平成14年度から全面実施(幼稚園は平成12年度から実施、高等学校は平成1 5年度から学年進行で実施)される学習指導要領の趣旨に沿って、子どもたちが個 性を伸ばし、自己実現を図ることができる教育を推進する。 ○教育内容の厳選や見直しを進め、基礎・基本の確実な定着を図る。 ○指導方法や評価方法の工夫改善に努めるとともに、子どもたちの興味・関心に 応じることができるよう、学習内容の選択の機会を拡大する。 ○各教科や新設の「総合的な学習の時間」などで、体験的な学習や課題を探求す る学習など、学びのプロセスを重視した学習方法を取り入れ、自ら学び自ら考 える力や態度を育てる。 ○すべての人が共に生活し活動するノーマライゼーションの理念のもと、障害の ある子ども一人一人に応じたきめ細かい教育内容を創造する多様な教育を展開 する。 ④特色ある学校づくりの推進 社会との連携を図りながら、学校の歴史・伝統や地域性を生かし、地域に開かれ た特色ある学校づくりを推進する。 ○子どもたちの生活の場である家庭・地域社会の特色を生かし、地域に根差した 教育を推進するとともに、社会人の活用など地域の教育力を活用した取り組み を進める。 ○家庭や地域の信頼に応え、連携を深めるために、教育目標や教育内容、教育活 動、また、その成果など学校運営にかかわる内容を、積極的に情報提供すると ともに、保護者や地域住民の意向を把握し反映するように努める。 ○国際化、情報化、科学技術の発展、環境問題など社会の変化に的確に対応でき る力を育む教育を進めるため、各学校の実情に応じた特色ある教育活動を工夫 する。 ⑤「大阪らしさ」を生かした教育の推進 大阪はいにしえよりアジアを中心とする海外交流の窓口として栄え、多様な価値 観を受け入れながら、民間の活力をもとに経済や文化を発展させてきた。文楽や歌 舞伎をはじめとして独自に育んできた伝統的な文化や芸能が多く、それらを支えて きた伝統産業も数多く存在している。 また、古くから教育に対する熱意が高く、実践的・実用的な教育を重んじ、広く 人材を育成してきた。活気ある自由な雰囲気の中、「懐徳堂」に代表されるような 町民による教育も熱心に行われてきた。 このような大阪がこれまで培ってきた歴史や文化、経済について学習したり、社 会的・文化的資源を活用したりすることで、「大阪らしさ」を生かした教育を推進 する。 ○地域・区の歴史や伝統・文化の教材化を進め、大阪の文化や芸能にふれる機会 を充実するとともに、地域の人材や社会的・文化的資源の積極的な活用を図り、 郷土大阪を大切にする心を育む。 ○自由で合理的な精神や進取の気象を育てる教育活動を工夫する。 ○多くの外国籍住民が居住する本市の現状を踏まえ、多文化共生社会の実現のた め、互いに違いを尊重し、共に生きる力を育む教育を推進する。 ○本市の進めているまちづくりを視野に入れ、新しい文化を生み出す創造性と活 力にあふれた教育をめざす。 (2)家庭・地域の教育の充実今日の都市化、少子化・核家族化などの影響で、これまで子育てを支えてきた環境や条件が変化してきている。このような中で、子どもたちに豊かな心を育み、未 来に向けて生きる力を育成するためには、学校・家庭・地域が連携を図るとともに 相互の協力体制づくりを進め、それぞれの教育機能を十分に発揮することが重要で ある。 ①家庭の教育機能の充実 家庭は、子どもに基本的生活習慣を身につけさせ、自立心・自制心、社会性など の基本的資質を養うなど、人格の基礎を形成する場である。しかし、今日、過保護 ・放任・虐待等にみられるように、家庭の教育機能の低下が指摘されている。 こうした状況のもと、しつけの大切さなど家庭のもつ役割をあらためて見直し、 その教育機能の向上を図ることが必要である。 ○保護者の不安や悩みに応えるために、子育てについて学び考える家庭教育に関 する学習機会の充実を図る。 ○学校・家庭・地域の懸け橋であるPTA活動や、地域の青少年関係の諸機関・ 団体等との連携・協力による家族が共に体験できる機会等の充実を図る。 ②地域の教育機能の充実 地域は子どもの豊かな人間性や社会性を育むうえで、身近でかつ重要な子育ての 場である。その機能を一層高めるため、遊びやさまざまな出会い・発見などの体験 を重視した取り組みを進めることが必要である。 ○年齢や世代の異なる人々との交流や自然体験活動、ボランティア活動、勤労体 験活動など、地域社会の教育機能の活用を図る。 ○学校をはじめとして、さまざまな機関・関係団体・指導者のネットワークを広 げ、地域における教育活動の充実を図り、地域での子どもの「心の居場所」づ くりを推進する。 2.「生きる力」を育む教育を支える体制づくり子どもたちにゆとりの中で「生きる力」を育む教育を推進するため、学校・家庭・地域がより一層連携を深めるとともに、それぞれの持つ教育機能がより有効に働 くよう体制の整備を図る。 (1)学校支援体制の充実各学校が保護者や地域の信頼を得ながら、自主的・自律的に特色ある教育活動を行い、教職員が協働して活力ある学校づくりを推進するため、学校支援機能を充実 する。 ①活力ある学校づくりへの支援 ○学校の自主性・自律性の確立を図り、特色ある教育活動が展開できるよう、学 校の裁量権の拡大にむけて検討を進めるとともに、学校の教育活動等に関する 許可・承認等にかかわる事項を整理・縮小する。 ○教育センターの機能の充実を図るとともに、各研究団体の活動を充実し、各学 校の創意工夫ある教育活動を支援する。 ○各学校が特色ある学校づくりを進めるため、予算の在り方を検討するなど学校 を支援する機能を充実する。 ○子どもたちに新鮮な感動を与え、学習意欲を高めるとともに将来の夢を育むた め、さまざまな知識・技能を有する人材が活用できるよう支援する。 ○ますます複雑化・多様化する子どもたちの心や体の健康などの様々な問題に対 して、学校が一体となって取り組むとともに、教育相談事業を充実し、「心の ケア」に努める。 ○学校経営の改善を図り、教育上の諸課題に適切に対応できるよう、管理職への 指導助言等のサポート機能を充実する。 ○円滑な学校運営を確保する観点から、管理職・教職員について任用制度の的確 な適用を図るとともに、人事上の適切な措置を講じるよう努める。 ②教職員の資質の向上 〇教職員の採用にあたって、幅広い識見と情熱を備えた人材の確保に向け、教職 員採用選考の実施方法等について研究・改善していく。 〇教職員の資質や能力・意欲の向上を図り、実践的指導力や専門的力量を高める ため、社会の変化や教職員のニーズに対応した研修を充実する。 ○教育指導等について問題を抱えている教職員に対し、現職教育などサポート機 能の充実を図る。 ③学校施設・設備の充実 ○各学校がそれぞれの実情に応じて特色ある教育活動を展開するにあたって、教 育活動が効果的に行われるよう、学校施設や設備の充実に努める。また既存施 設・設備を有効に活用する。 ○高度情報化社会に生きる子どもたちの情報活用能力と情報モラルの向上を図る ために、情報機器を身近な道具として活用できるよう、設備の充実に努める。 (2)学校間の連携と交流の充実子どもたちの社会性や豊かな人間性を育む教育を推進するために、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校、養護学校などの相互の連携や交流を図る。 ①学校間連携の推進 ○少子化にともなう学校の小規模化の現状を踏まえ、学校間で合同授業や合同行 事を実施したり、中学校の部活動を合同して実施したりするなど、創意工夫を こらす。また、幼小及び小中連携のより効果的な在り方についても検討する。 ○高等学校では、生徒の多様なニーズに対応するため、柔軟な教育課程を編成す るとともに、他校の授業を受け単位修得が可能となるよう検討する。 ○盲学校、聾学校、養護学校では、地域で共に生きるという観点から、在籍する 子どもの居住地校との交流を進める。 ○インターネットなどマルチメディアを利用した学校間連携のシステム等につい て、研究を進める。 ○学校間での進路指導の連携を図り、保護者や子どもたちへ適切な情報を提供す るとともに、相談機能を充実する。 ②中学校と高等学校の連携 ○中学校と高等学校との接続の在り方、6年間を見通した教育活動の在り方、さ らに本市における「中高一貫教育」の在り方について検討を進める。 ○高等学校の教育内容を情報提供し、中学生にその一端を体験させるなど、進路 指導の充実を図る。 ○生徒の多様な個性や能力を一層多面的に評価する高等学校の入学者選抜方法の 在り方や、高等学校の特色化に対応した選抜方法などについて、今後とも検討 を進める。 (3)学校教育と社会教育の連携学校・家庭・地域が連携を進め、役割を分担し、それぞれのもつ機能を生かしながら一体となって地域における教育活動に取り組むことが大切である。そのため、 地域の教育資源の活用や学校施設の開放など地域に開かれた学校づくりをめざし、 学校教育と社会教育の連携・融合の積極的な展開を図る。 ①子どもを守り育てるネットワークづくり 〇学校、社会教育施設、PTA、地域諸団体、ボランティアグループなどが協力 して子どもを守り育てるためのネットワークづくりに努める。学校を地域コミ ュニティの拠点として、地域の協力による開かれた学校づくりを推進する。 ○子どもたちを含めた地域住民の生涯学習・生涯スポーツの場として、学校施設 開放を一層促進するとともに、地域におけるスポーツ活動の新しいシステムづ くりを検討する。 ②地域の人材等の学校教育への活用 ○学校教育の多様化への対応と活性化を図るため、生涯学習ルームの指導者など、 地域の幅広い人材の活用を図る。 ○地域の自然環境や文化財などさまざまな資源を活用し、体験学習の機会の充実 を図る。 ③社会教育施設等との連携と活用 ○社会教育施設等の教育的資源を活用した社会体験、自然体験、生活体験の学習 プログラムを学校と社会教育施設等が共同で開発するなど、連携を積極的に進 め利用の促進を図る。 ④子どもの体験活動に関する情報の収集と提供 ○子どもたちの体験活動を豊かにするため、地域の活動や人材、自然、文化財な どに関する情報を収集・提供する。 |
登録日: 2005年6月1日 / 更新日: 2006年10月25日




