相談事例 1.教室からの飛び出しについて (小学校3年生)


パニックになって教室から飛び出すAさん


 「3年生のAさんが急にパニックになって教室から飛び出してしまい、授業に参加できないことが続いています。どうしたらよいのでしょうか」という相談が小学校から寄せられました。担当者は、先生にお尋ねしました。
「そのパニックとは、いつ、どのような状態になるのですか。具体的にお話しください」


行動を具体的に説明してみる


 パニックと一口に言ってもそのときの行動は様々です。自傷や「物を投げる」「泣き叫ぶ」といった色々な行動がありますが、まず、その行動を具体的に説明してみること(記録に取ること)が大切です。
 「国語の時間に急に大きな声をあげて教科書やプリント類を破り捨て、教室から飛び出す。飛び出すと、いつも運動場の隅でボールを蹴っている。チャイムが鳴って次の授業時間になると教室に戻ってくる」
 という具体的な説明になったことで、Aさんの行動がイメージしやすくなりました。


具体的にすることの大切さ


 行動を具体的に記述することで、その行動が起こるきっかけとその後についても考えることができ、今後の支援の手がかりになるヒントが見つけやすくなります。また、どんなときにその行動が起こるのか、起こった後はどうなるのか、という情報を支援する側で共有しやすくなります。

 ところで私たちにとって、行動を具体的に話すことは普段から大切なことです。またこれは、子どもにわかりやすい指示を出すこととも共通しています。例えば、次の表現は、左のものより右の方が、具体的にどう行動するか、わかりやすいものになっています。

(例)廊下を走らない → 廊下は歩きます
   では、次の表現はどうでしょうか。
     (1)大きな声でしゃべらない
     (2)ちゃんと並びなさい
     (3)本をきちんと片付けなさい

 どうですか。これらも子どもに指示する行動を具体的には示せていません。よりわかりやすい指示を考えてみてください。

  (回答の例)
   (1)先生がお話しするときは静かに聞きます
   (2)前の人の頭を見てまっすぐに並びなさい
   (3)本を本棚に入れなさい


行動を3分割してみる


 行動とは、環境と無関係にそれだけが突然に起こるものではありません。行動とは個人と環境の相互作用から起こるものです。子どもの気になる行動があれば、その行動の前後にも注目して3つに分けてみてください。
        

 「3分割」にすることで、「1.気になる行動をより具体化することができ共通理解しやすくなる」「2.行動が起こる場面が予想しやすくなる」「3.困った行動を未然に防ぐための環境調整をする手がかりになる」のです。


行動の前後に注目する


 行動の3分割ができたら、次は行動の前後に注目してみます。気になる行動はどんなきっかけで起こるのか。行動の前の状況を注意深く見ていく必要があります。
 このケースの場合、国語の時間に先生から「教科書の文をプリントに抜き出して書きなさい」「教科書に線を引きなさい」などの指示が出されたときに起きやすいことが分かりました。
 次に、気になる行動をした結果、子どもにどんなことが起きているのか、子どもの様子や周囲の状況に注目します。行動の後に注目することで、子どもがその行動をしている理由を知ることができます。Aさんは、その授業が終わるまでひたすらボールを蹴り続けており、次の授業には何事もなかったかのように教室に戻ってくるのでした。


教室から飛び出すのはなぜか

 「国語の時間に先生から『教科書の文をプリントに抜き出して書きなさい』や『教科書に線を引きなさい』などの指示が出されたときに」「大きな声をあげて教科書やプリント類を破り捨てて、教室から飛び出す」「飛び出すと、いつも運動場の隅でボールを蹴っている。チャイムが鳴って次の授業時間になると教室に戻ってくる」と、Aさんの気になる行動が具体的に記述され、行動を3分割にすることができました。

     

 この行動を3分割にした表を見たときに、特別支援教育コーディネーターと一緒に来られていた担任の先生が、「Aさんは、私の指示がわからずに困っていたのかも知れませんね」と気づかれました。


行動には「機能」がある


 特定の行動が何度も繰り返されるのには理由があります。そして、その理由に結びつく「行動の『機能』」としては次の4つが代表的です。
   ☆ もの・活動の要求
   ☆ 注目の要求
   ☆ 逃避・回避
   ☆ 自己刺激
 教室から飛び出したAさんの行動には、先生の指示が分からず、クラスメイトと同じことをできない辛さから逃れる「逃避・回避」の機能があったのではないか、と考えられました。


伝え方の工夫と環境を整える工夫


 そこで「1.先生の声掛けや指示がうまく伝わっていないのではないか」「2.聞いていても、指示をよく理解できていないのではないか」という2つの仮説を立て、次のような工夫をすることにしました。

 1.指示や声掛けについては、
   ・注意を促す 〔例えば最初に「今からお話しします」と声を掛ける〕
   ・短く、1つずつ話す〔例えば「まず、○○します」と一動作だけ指示する〕
   ・黒板にキーワードを示す(視覚支援) 〔さらに「ヒントはこれ」と指し示す〕
   ・質問タイムを設ける(援助を求めることの学習)〔さらに、例えば「みんなのために質問
    してくれる人はいませんか」と声を掛ける〕
  というように伝え方の工夫をすること。

 2.理解を助け、文章を読んだり線を引いたりするなどの行動を取りやすくなるように、1時間で学ぶ分量の文章をワープロで1枚のプリントにして、学習対象を視覚的に絞り込むこと。(学習環境の工夫)


成功体験が望ましい行動の定着につながる


 授業での工夫により、Aさんは学習に取り組めるようになりました。その結果、ほめられる場面が増え、学習に対する自信がついたことで、教室から逃避する必要がなくなったのでしょう。その後の飛び出しはほとんどなくなったとのことです。

大阪養護教育振興会 月刊誌 「育誠」 平成22年7・8月号
「大阪市教育センターコーナー」より一部転載)